ないえの里から(奈井江、北海道)

2月

 16,000本の苗木が整然と並ぶ苗専用のハウス。

外は厳しい冬の真っ只中だが、日中のハウス内は、最低でも15℃以上に保たれている。

この日は日差しがあったので、20℃を越えていた。ちなみに、その時の外気温は、マイナス8℃だった。

 夜に備え、苗には二重のシートを掛ける。夜間でも、ハウスの中は6℃以上に保温され、苗を覆ったシートの中の温度は、12℃くらいに保たれる。

3月

 その1.

 温度管理とともに大切なのは、苗への水分補給。葉に水をかけず、土(根)だけに水を与える。

 新田さんは言う。

「必要以上に水はやらない。そうすると、苗は、水が欲しい、水が欲しい、と根を伸ばすんだ」

 この頃から、甘やかさずに育てることが肝心なのだ。

「だからって、イジメすぎるとグレルやつもいるから、その辺の塩梅が大事なんだ」

 そう言いながら、新田さんは愛しげに苗の育ち具合を確認している。

 そろそろ、定植の時。

 

 その2.

 花芽は定植へのゴーサイン。

「ここにあるのが、花芽なんだ。この花芽がな、植えてくれ、って言ってんだ」

 苗が育ち始めてから35日ほど経ち、定植が行われる。もちろん、定植するハウスは苗のハウスとは別棟。16,000本の苗木は、4棟に分けて定植され、収穫までそれぞれのハウスで育つ。

 定植初日。外は吹雪になった。

5月

 この冬の大雪と寒さのため、今年は例年に比べて、成長が遅れているのだそうだ。それでも、最初に植えられた苗は、すでに立派な実をつけていた。

 午後の光に照らされて、実の表面や茎の細かい毛が黄金色に輝く。この黄金色の産毛が美味しさの証明なのだ、と新田さんは言う。

7月、8月

 新田春雄さん。12年前、一個のトマトに出会って、その味に強烈な衝撃を受けたことで、トマト作りに目覚めたという。

 今年、新田さんは、29,000本のトマトの木を育てている。最初に、16,000本。二回目には13,000本の苗木を定植した。

 一本の木から、生食用のトマトとして商品になるのは10個ほど。実際には、もう少し多く実ができるそうだが、生食用以外の実はトマトジュースになる。ドロッとしたこのジュースが、まためっぽう美味い。

 新田さんは、主に消費者からの注文による宅配という流通形態を採っている。美味しいものを作って提供すれば、消費者は買ってくれる、と彼は言う。

 ハウスでトマトの写真を撮っている時、ふと思い浮かんだことを、新田さんに聞いてみた。

「一本のトマトの木の中で、どの辺にできる実がいちばん美味しくなるんですか?」

 すると、

「木のどこ、というのは特にない」

というすげない言葉が返ってきた。

 新田さんが言うには、実のつく場所の違いよりも、苗の定植時季の違いが、そのまま、味の違いになるのだそうだ。今年で言えば、二回の定植のうち、一回目の苗からできるトマトの方がモノが良いという。なぜなら、最初の苗は、より冬の寒さに鍛えられているから、トマトの糖度も一度くらい甘くなるのだとか。

 最後に、今のように良いトマトができるようになるまで、どのくらいかかったのかを尋ねた。

「ハウスを大きくして、二年目になる。水や有機のことなど、まだまだ模索中だ」

 新田さんの少ない言葉に、かえって、熱い探究心を感じた。

                                                    了.

 

撮影データ:1999年

撮影場所:北海道空知郡奈井江町

撮影協力:新田 春雄&「とまと屋さん、にった」のおばちゃん

撮影機材:Contax ST, RX/60mm makro, 50mm, 35mm, 135mm

              Rolleiflex 3.5F (Planar 75mm)

              Hasselblad 503cxi/120mm makro

使用フイルム:Kodak 160NC